CINRA presents exPoP!!!!!

スペシャル

12.04.27

OTOTOI GROUPインタビュー

12.01.17

荒川ケンタウロスインタビュー

11.11.30

シャムキャッツインタビュー

09.03.13

前野健太インタビュー

09.03.13

exPoP!!!!!オリジナルグッズ

前野健太インタビュー

ベーシックながら熱量と気骨あふれる音楽で着実にファンを増やしているミュージシャン、前野健太。最近はアルバムのジャケットをイラストレーター兼漫画家の本秀康氏が、そしてPVを映画監督の松江哲明氏が手掛けるなど多方面のクリエイターたちが彼の音楽に注目を寄せ、活動の幅を広げている。今回は先日レコ発を終えたばかりのセカンドアルバム『さみしいだけ』の楽曲について、また彼の歌の要ともいえる詞へのこだわりを語ってもらった。

exInterview

インタビュー・テキスト:野口道代

前野健太 (作詞 作曲 唄 演奏)
79年生まれ。埼玉県出身。99年より作詞作曲を始める。04年から「さむつらす」のギターボーカルとして音楽活動を始める。2006年10月「さむつらす」活動休止後、前野健太バンド(現・前野健太とDAVID BOWIEたち)を結成。並行して弾き語りソロライブ、親交の深いロックバンド「おとぎ話」をバックバンドに迎えるなど幅広い活動を展開している。07年にデビューアルバル「ロマンスカー」、09年にセカンドアルバム「さみしいだけ」を発表。

>公式サイト

exInterview

e

前野さんの楽曲は歌詞が丁寧で、ことばの一つひとつがすっと耳に入ってきます。詞を書くときに意識していることはありますか。

前野 普段ものを見るときや誰かの歌を聴く時に、心にひっかかってくる言葉があるかないかということが基準になっているので、自分が歌をつくるときにも言葉の表情や見た目は気をつけているというか、大事にしています。あと僕は詩集がすごく好きで、読んでいると本当に豊かな気持ちをもらえる。だから自分も、詩を読んでいるときのように贅沢な感覚になれるものをつくっていきたいと思っています。

e

もともと本や詩集は好きだったんですか。

前野 いや、小さい頃は本が嫌いでほとんど読んでいませんでした。でもあるとき兄貴が「お前、本を読まないと馬鹿になるぞ」と言ってどさっと本を持ってきて。確か僕が18、19歳位の時だったんですけど。本は好きじゃないけど強迫観念みたいな感じで無理やり本を読みはじめたのがきっかけですね。とにかく読解力がないんで、読んでいても理解できなくてしばらく苦痛だったんだけど『レ・ミゼラブル』の文庫本の一巻を読んだときに初めて続きが読みたくなって。今となってはほとんど内容忘れましたけど(笑)。それで二巻を探しに古本屋に行ったんです。そのときにすげぇ楽しいな、と思って。古本屋が好きになって通っているうちに、物語というよりも本っていうモノを好きになっていきました。

e

その頃は既に音楽活動をしていたのでしょうか。

前野 10代の後半はずっと写真をやっていたので音楽をはじめたのはもっと後ですね。まあギター触ったりはしてましたけど、きちんと曲をつくったのは一人暮らしを始めた20歳のときくらいなので、けっこう音楽を作りはじめたのが遅いんですよ。

e

初めて作った曲、聴いてみたいです。どんな歌なんですか?

前野 もう今は完全に封印してます(笑)。歌詞がめちゃくちゃ恥ずかしくて、テープで録音して聴いたときに「才能ねえな」って愕然としました。と言いつつも根本的なテーマは今とそんなに変わってないのかもしれないけど(笑)。初めて書いた詞を兄貴に見せたときに開口一番で「これはマズイでしょう。恥ずかしいよ」って言われましたから。その時「俺は恥ずかしいくらいのものをつくっていきたいんだ!」って反論したんだけど「お前が恥ずかしいのは良いんだけど、読んでるこっちが恥ずかしいんだよ」ってはっきり言われて、打ち砕かれて。当時好きだった友部正人や高田渡の歌詞を見て、自分の歌詞のどこがいけないのかを見比べたりしましたね。そのときに、実は詞は高田渡本人が書いてるんじゃなくて、誰かが書いた詩にメロディをのせて歌っているのがほとんどなんだってことを知って。載っていた詩人の名前をメモって彼らの詩集を読むことからはじめました。そうやって色々な詩を読んでいるうちにどんどん詩の世界に惹かれていきました。 自分が好きだと思う詩を真似て詞を書いてみることで少しずつ詞の書き方というか、ことばのリズムを掴んでいったんだと思います。

exInterview

e

セカンドアルバム「さみしいだけ」が発売されて一ヶ月が経ちましたが周囲の反応はいかがですか。

前野 ミュージシャンの三輪二郎君が今回のアルバムを聴いて「手紙を読んでいるみたいだった」っていう感想をくれたんですけど。それは自分でも思っていたことだったので、聴いている人にも伝わったのがすごくうれしかったです。

e

まるで自分のことのように感情移入したり、すぐ身の回りで起きている出来事のように親近感が湧く曲が多かったです。

前野 人それぞれ歌の作り方が違うと思うんだけど、僕の場合は身近に起こる出来事のなかに色々なテーマが入ってくる感じが好きで、全てがそこで起きていると思ってるんです。例えば誰かと一緒だったり、一人で月を見ているときにふとすごく遠くにある宇宙を目の前に感じる瞬間とかに惹かれる。目の前のものから、遠いところの何か、得体の知れない何か、へと跳躍してつながってみせる。そういうことが出来るのが「詩」の力だと思っているので、今はそういう身近な出来事を歌にしていきたいですね。

e

前野さんの歌は「君」と「僕」のやりとりのなかに様々な心情が描写されていて、それが作品の持ち味にもなっていると思うんですが、例えば「社会」や「政治」よりも、「恋愛」という関係性を通してのほうが「僕」としての「歌」を見つけやすいのでしょうか。

前野 うーん・・・鋭いかも。そこにぐっときちゃうんでしょうね。恋愛というか二人のやりとりっていうか。まあ、そういうことなのかな。

e

ただ、セカンドアルバムに収録されている楽曲はけっこう「君」と「僕」以外の曲もありますよね。

前野 そうですね。ファーストアルバムにくらべて、今回のアルバムはジャケットのイメージの通り、一人で街を歩いているときに生まれた曲がけっこう多いですね。

e

特に『鴨川』はひとりぼっちというか、敏感になっているときの視点で景色の細部をとらえていて、すごく奥行きのある曲だなあという印象を受けたんですが、どんなときに生まれた曲なんですか?

前野 あの曲は一昨年の冬に京都のライブに行ったときに出来た曲ですね。もともと京都で一曲歌をつくるぞ、という心構えで行ったので常に歌を探している感じはありました。それで京都の街をあちこち歩いて、鴨川にふっと降り立った瞬間「あ、歌がある。つかまえないと」と思ったんです。確かにナーバスというか心が敏感になっていたということもあったし、単純にそこに自分が好きなものがあったんだと思います。『鴨川』は旅っぽい叙情的なサウンドだし、歌詞も深い。すごく良く出来ている曲です(笑) 。

exInterview

e

『鴨川』のPVは前野さんが撮った写真と曲がシンクロしていて、ばっちりはまってましたね。

前野 あれはPVを撮ってくれた松江哲明監督のアイデアですね。僕がホームページに載せていた白黒の写真を気に入ってくれたみたいで。写真自体は7,8年前に撮ったものなんですけど、あれも『鴨川』と同じで一人で街を歩いたり旅をしながら撮った写真なので雰囲気が似ていますよね。今日セカンドアルバム『さみしいだけ』をバイクに乗って聴いていたときに、ふと今回のアルバムはモノクロ写真っぽいなぁっと思ったんです。ファーストアルバムの『ロマンスカー』のイメージは完璧にカラー写真なんですけど。モノクロの写真って色がなくて情報が少ない分、目を凝らしてモノ自体の中身を見ていかなきゃならない。今回のアルバムもまさにモノクロの写真のように、最初は地味でちょっとつまらないんだけど時間をかけて見ていくと色々な見方ができる作品に仕上がってると思います。サービス精神はあまりないけれど、本質を見ていくのには面白いんじゃないかな、と。そういう意味でこのアルバムは夜、聴いて欲しいですね。昼だと眩しくて曲がちょっと霞んじゃうけど、色が少ない夜に聴くとしっくり馴染むと思います。

e

ファースト、セカンドとそれぞれ表情の違うアルバムだったので次回はどんなアルバムになるのかなぁと、今から楽しみにしています。最後に前野さんの今後の活動予定を教えていただけますか。

前野 今年中に三枚目のアルバムを完成させたいので、そろそろ本格的に曲作りに取りかかるのと、さっき話にもでた松江哲明監督の新作の映画『ライブテープ』に出演したんですが、その作品がついに完成したので反応がすごく楽しみです。元旦の吉祥寺の街を、僕が歌いながら歩く姿を80分間ビデオテープを止めずにひたすら撮り続けるっていうけっこう無茶な企画だったんですけど(笑)。撮影中に色々なドラマが起きて、本当に貴重な体験をさせてもらいました。自然と歌が街に溶け込むときもあったし、自分だけが浮いちゃうときもあって。自分がつくった歌が自分のものじゃなくなるような不思議な感覚になったんです。話せば長くなるんですけど・・・。とにかくもの凄い作品になっているので是非たくさんの人に観て欲しいです。

x

前野健太